糖尿病とは
糖尿病とは、インスリン(血液中の過剰なブドウ糖を組織に取り込ませ、血糖値を安定させる働きをしているホルモン)の分泌が不足する、または分泌が十分であってもうまく細胞に作用しなくなることで、高血糖な状態になることを言います。
健常な人の場合、このインスリンがしっかり働くことで、血中のブドウ糖を細胞に送り込んでエネルギー源にしたり、または脂肪やグリコーゲンといった物質に変えて筋肉や肝臓内に蓄えたりします。
しかし、この働きが悪くなると細胞内にエネルギー源であるブドウ糖を上手に吸収できなくなり、未処理のブドウ糖を血液中にダブつかせます。そのことにより、肝臓で脂肪が溜まったり、尿糖となって腎臓から排泄されることで、糖尿病を起こすようになるのです。
これが慢性的に続くと、血糖コントロールが非常に困難になる(高血糖の状態が続く)ほか、血管障害の危険もあり、様々な合併症も招きやすくなるのです。
そのため糖尿病は、早期に発見し、早期に治療を始めることが大切です。
糖尿病の種類
糖尿病を発症する原因というのは複数あり、4つのタイプに分類されます。それぞれのタイプは以下の通りです。
1型糖尿病
インスリンを産生する膵臓のランゲルハンス島β細胞が主に自己免疫によって破壊され、インスリンが分泌されなくなる状態を言います。患者には10歳未満の小児や若年層が多く、以前は「若年型糖尿病」と呼ばれていましたが、成人でも発症することが判明し、現在の疾患名となりました。日本での年間発症率は、10万人あたり1~2名ほどと言われています
2型糖尿病
糖尿病患者全体の実に9割以上の方が2型糖尿病であり、単に糖尿病と言われる場合、おおよそ「2型」を意味し、成人で発症するタイプのほとんどを占めています。
遺伝的要因のほか、日頃の不摂生な生活習慣(食べ過ぎ、運動不足)、ストレスなどの原因でインスリンの分泌が不足あるいは低下するなどして発症すると考えられています。
初期症状はほとんどみられませんが、そのまま放置すると徐々に全身の血管や神経が障害され、様々な合併症を引き起こします。
二次性糖尿病(特定の原因があって起こる糖尿病)
遺伝子異常や特殊な病気(内分泌疾患や膵疾患、ウイルス感染など)、あるいは薬剤・化学物質の影響などが原因で起こる糖尿病になります。
妊娠糖尿病
妊娠時はインスリンの働きを弱めるホルモンが胎盤から多量に分泌されるようになります。そのため、高血糖状態に陥りやすく、糖代謝異常の状態になります。完全なる糖尿病ではありませんが、このような症状を妊娠糖尿病と言います。
糖尿病の治療
糖尿病治療の基本は、食事療法と運動療法です。当クリニックでは、多くの場合において、まず食事と運動による治療で血糖のコントロールに努めます。治療内容は以下の通りです。
血糖コントロールの目標
目標 | 血糖正常化を目指す際の目標 | 合併症予防のため目標 | 治療強化が困難な際の目標 |
---|---|---|---|
HbA1c(%) | 6.0未満 | 7.0未満 | 8.0未満 |
治療目標は、年齢、罹病期間、低血糖の危険性、サポート体制などに加え、高齢者 では認知機能や基本的ADL、手段的ADL、併存疾患なども考慮して個別に設定します。たとえば、加齢に伴って重症低血糖の危険性が高くなることに十分注意します。
公益社団法人日本糖尿病協会編『糖尿病連携手帳』より抜粋
食事療法
1日の適正エネルギー摂取量を知る
食事療法では、栄養バランスがとれた食事と適正カロリーの摂取が大切です。食品の種類をできるだけ多く摂る、規則正しい三食の食事、よく噛んでゆっくり食べる、満腹まで食べずに腹八分目までにするといったことを心がけてください。
なお、1日の適正エネルギー摂取量の計算式は以下の通りです。
適正エネルギー摂取量(の計算式) | 標準体重×身体活動量 |
---|---|
標準体重の計算式 | 標準体重(kg)=身長(m)×身長(m)×22 |
身体活動量 | 軽い労働(デスクワーク中心):25~30kcal 普通の労働(立ち仕事など):30~35 kcal 重労働(力仕事など):35 kcal以上 |
栄養バランスを考える
糖尿病患者様の食事療法では、適正なエネルギー摂取量だけでなく、体に必要な栄養素をバランスよく摂ることに努める必要もあります。3大栄養素(たんぱく質、脂質、炭水化物)のバランスのよい摂り方は、以下の通りです。なお、この摂取方法は合併症のない方に限ります。
たんぱく質 | 1日約50~80g(標準体重1kgあたり1.0~1.2g) |
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炭水化物 | 総エネルギー摂取量の50~60% |
脂質 | 総エネルギー摂取量の25%以下が望ましい |
※このほか食品交換表(日本糖尿病学会編:糖尿病食事療法のための食品交換表)もご活用ください
運動療法
継続的に無理なく続けられる運動を
運動療法では、毎日無理することなく、継続的に行うことが大切です。運動では、ゆったりと全身の筋肉を使う有酸素運動を行ってください。有酸素運動には、ブドウ糖や脂肪を筋肉エネルギーに変える効果があります。
運動量については、80~100kcalを消費するくらい(水泳/5分、ウォーキング/20~25分、自転車20分)を目安として、息がやや弾む程度の運動で大丈夫です。ちなみに運動前のウォーミングアップや運動後のクールダウンもしっかり行い、思わぬけがを防ぐようにしましょう。
患者様によっては、運動療法が適さない方もおります。医師の指示にしたがって実施するようにしてください。
薬物療法について
食事療法と運動療法を行っても一向に改善がみられない場合は、薬物療法を実施します。主な治療法としては、血糖降下薬の服用やインスリン注射などがあります。これらの治療は医師の判断のもとで行います。
糖尿病の合併症について
糖尿病はそれ自体が怖い病気というわけではありません。糖尿病を発症すると神経や血管に悪い影響が及ぶのをはじめ、免疫力が低下するなどして感染症にかかりやすくなり、合併症を招きやすくなるのです。なお合併症とは、ある病気が元になって起こる別の病気や症状のことを言い、糖尿病を発症した場合に気をつけなければならない疾患なのです。
糖尿病による合併症の中でも「糖尿病網膜症」「糖尿病性神経障害」「糖尿病性腎症」は三大合併症と言われています。そのほかには、脳卒中や歯周病をはじめ、心筋梗塞、動脈硬化症、皮膚感染症、足の潰瘍、壊疽などがあります。なお、三大合併症の主な特徴は以下の通りです。
糖尿病網膜症
目の内側には、網膜(目から入った光が像を結ぶ場所)という膜状の組織があり、光や色を感じる神経細胞が敷きつめられています。高血糖の状態が長期間続くと、ここに張り巡らされた細い血管が動脈硬化による損傷を受け、血流が悪くなって酸素と栄養が十分に供給されず、視力が弱まってきます。進行すると出血や網膜剥離を引き起こしたり、時には失明に及んだりするケースもあります。また、白内障になる方も多いと言われます。
糖尿病網膜症は、かなり進行するまで自覚症状が無いこともありますので、糖尿病患者の方は、定期的に眼科を受診し、検査を受ける必要があります。
当院で糖尿病治療中の方は最低でも年1回の眼科受診をすすめ、受診を促します。
病期 | 眼科受診 |
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正常(網膜症なし) | 6.1回/6~12カ月 |
単純網膜症 | 1回/3~6カ月 |
増殖前網膜症 | 1回/1~2カ月 |
増殖網膜症 | 1回/2週間~1カ月 |
※糖尿病の状態に応じて受診間隔が変わることがあります。
糖尿病性神経障害
主に足や手の末梢神経に障害が起こり、症状については「手足の痺れ」「やけどや怪我の痛みに気づかない」など様々です。ほかにも下痢や便秘といった胃腸の不調、顔面神経麻痺、立ちくらみ、発汗異常、ED(勃起不全)など多様な症状が現れてきます。
末梢神経障害 | 足のしびれ、冷え、つり |
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自律神経障害 | 立ちくらみ、排尿障害、便秘、下痢、勃起障害 |
足部 | 足の感覚低下、足腫瘍、足壊疽(えそ) |
糖尿病性腎症
高血糖状態が続くと、血液を濾過して尿をつくる腎臓の糸球体(しきゅうたい)という部分の毛細血管が傷害を受けて機能が損なわれ、だんだんと尿がつくれなくなります。そして遂には人工透析が必要となり、機械で血液の不要な成分を濾過し、人工的に尿をつくらなければならなくなったりします。すると週に2~3回、定期的に病院などで透析を受けるようになるので、日常生活に大きな影響が及んできます。現在、人工透析になる原因の第1位が、この糖尿病性腎症です。この合併症も自覚症状が無いままに進行しますので、早期に発見するためには、定期的に腎機能を検査する必要があります。
糖尿病治療中にも関わらず尿検査をしたことが無い方は是非主治医にご相談ください。
大血管障害について
大血管障害は、高血糖・高血圧・脂質異常症(高脂血症)・肥満(とくに内臓肥満)の4つの疾患が原因となって組み合わせで動脈硬化がおこり血管を詰まらせ、大血管障害を起こしやすくするのです。
なお、動脈硬化は先に述べた4つの組み合わせ以外にも、喫煙・加齢・運動不足・ストレス・不適切な食生活なども原因になります。
そのため、動脈硬化を予防するには、糖尿病の治療以外にも、他の生活習慣病も同時に治療していく必要があるのです。
糖尿病の主な大血管障害
心筋梗塞
心筋梗塞は、心臓に酸素や栄養を供給している冠動脈が硬化・狭窄し、冠動脈の内腔が狭くなったところに、血液の塊(血栓)が詰まって血管を塞いでしまうと、酸素が供給されなくなった部位がダメージを受けることで発症します。通常であれば、心筋梗塞が起こると胸が強く締めつけられるような激しい痛みが生じますが、糖尿病による神経障害を併せ持っている患者様では、痛みを覚えない場合もあります(無痛性心筋梗塞)。
脳梗塞
脳梗塞は、脳の血管が詰まってしまい、詰まった箇所の先に血液が供給されなくなってしまう疾患です。様々な症状が閉塞を来たした場所に応じて、引き起こされます。代表的な症状としては、半身の麻痺や言葉の障害などがあります。
末梢動脈性疾患
足の血管の動脈硬化が進行し、動脈の狭窄や閉塞によって血流が悪化することによって引き起こされます。足やふくらはぎが痛くなって運動ができない、休み休みでないと歩けない(間欠性跛行)などの症状が現れ、生活・行動範囲も制限されてきます。足に潰瘍や壊疽(えそ)を起こしてしまい、切断しなければならなくなることもあります。
急性合併症について
先に述べた三大合併症などの合併症は、病状がゆっくりと進行していくので慢性合併症に分類されますが、これ以外の合併症として、感染症や脱水、あるいは糖尿病治療の中断や甘いジュースの飲みすぎなどが起因となって、異常な高血糖をきたすことがあります。この場合、適切に治療を行わないと、生命をおびやかすおそれがあります。
このような状態を急性合併症といい、インスリン分泌不足や清涼飲料水を一度にたくさん飲みすぎたことで起きる糖尿病ケトアシドーシス、著しい高血糖と極度の脱水がしばしば意識障害を引き起こす高浸透圧高血糖症候群があります。
この場合、適切に治療を行わないと生命をおびやかす恐れがあります。速やかに治療をする治療をする必要がある他、高血糖を起こさないように予防しなくてはなりません。