甲状腺について
甲状腺はのどぼとけのすぐ下にあり、蝶のような形をした臓器です。ここから分泌される甲状腺ホルモンは全身の新陳代謝を調節する役割があり、心臓や脳など色々な臓器に作用します。通常はホルモンが多すぎず少なすぎないようバランスが保たれていますが、何らかの要因によりバランスが崩れてしまうと疲れやすくなる、体重が減る、手足が震える、むくみやすくなるなど様々な全身症状が現れます。甲状腺疾患は免疫系が自分の細胞を異物だと認識し、攻撃してしまうことで症状が引き起こされる自己免疫疾患です。20代~50代の女性に多いという特徴があります。
バセドウ病
バセドウ病とは
バセドウ病はグレーブス病と呼ばれることもある甲状腺機能亢進症の代表的な疾患です。甲状腺ホルモンが過剰に産生されてしまい、動悸・体重減少・手の震え・発汗などの身体的症状やイライラ感や落ち着かないなど精神的な症状が現れます。特に若い女性に多く、人口1000人あたり0.2~3.2人の患者数とされます。適切な治療を受けずに放置すると心臓の負担が大きくなり心不全や不整脈などに加え、骨の再生よりも破壊が強く起こるため骨粗しょう症のリスクも高くなります。そのためできるだけ早く適切な治療を受けることが大切です。
発症の原因
何らかの原因で甲状腺組織に対する自己抗体が発生し、これが刺激となってホルモン合成が過度に活発になることで発症します。
甲状腺組織に対する自己抗体が作られてしまうメカニズムについてはまだ解明が進んでいません。現状では遺伝的との関連性が指摘されているほか、バセドウ病になりやすい体質の人が過剰なストレスや過労、女性の場合は妊娠や出産などをきっかけとして発症することが多いと考えられています。
治療について
重症度など個々の事情にもよりますが、基本は甲状腺ホルモンの合成を抑える抗甲状腺薬を使用した薬物療法です。薬の服用を開始後、1~3か月程度で甲状腺ホルモンの数値が正常に近づき、症状もおさまってきます。しかし甲状腺組織に対する自己抗体が作られなくなるまでには時間がかかるため、治療が順調な場合でも最低2年程度は服薬を続ける必要があります。
薬物療法以外には放射性ヨウ素のカプセルを摂取することで甲状腺の細胞を減らす放射性ヨウ素治療や手術療法があります。これらの治療法は薬物療法を続けても効果が見られない、薬の副作用が強い、短期間で治療したい場合などに適応となります。それぞれメリット、デメリットがありますので十分に検討の上で治療を行います。
橋本病
橋本病とは
バセドウ病とは逆に甲状腺ホルモンの量が不足するのが橋本病です。新陳代謝が低下し全てが老けていくような症状がみられます。無気力で忘れっぽくなり、症状が進むと認知症の原因の1つにもなります。他には寒がるようになる、皮膚が乾燥してカサつく、体全体がむくむ、髪が抜けるなどの症状が特徴的です。
非常に頻度の高い病気で、成人女性の10人に1人、成人男性の40人に1人にみられます。ただし、橋本病であっても実際甲状腺ホルモンの量が少なくなる甲状腺機能低下症の方は4~5人に1人未満です。特に30~40代の女性に発症することが多く、幼児や学童はごくまれです。
発症の原因
橋本病では免疫異常により甲状腺に慢性的に炎症が生じています。この炎症によって甲状腺組織が少しずつ壊され、甲状腺ホルモンの分泌量が減少すると甲状腺機能低下症が生じます。
バセドウ病と同様、甲状腺組織に対する自己抗体が作られてしまうメカニズムについては解明されていません。もともと橋本病を持っている人が、強いストレスや海藻類や薬剤などによるヨードの過剰摂取、女性の場合は妊娠・出産などをきっかけに症状がでてくると考えられています。
治療について
橋本病であっても甲状腺がきちんと機能しており、甲状腺ホルモンのバランスに問題がない場合は特に治療の必要はありません。甲状腺機能低下症がある場合は、甲状腺ホルモンの内服を行い、薬物療法で甲状腺ホルモンを補います。治療期間は個人差が大きく、数か月で機能低下が改善する方もいれば、生涯にわたって治療の継続が必要な方もいます。
妊娠を希望する場合は症状が出ていなくても妊娠前から治療が必要になる場合も多いため、専門医の受診をおすすめします。また妊娠中や出産後にも定期的に通院し、甲状腺の状態をチェックする必要があります。